「大人になってから発達障害と診断されるケースが増えている」と耳にしたことはありませんか?
子どもの頃には気づかれず、社会人になって初めて自分がADHDかもしれないと感じる人も少なくありません。
本コラムでは、障がい者雇用に関心のある中小企業経営者の皆さまに向けて、大人のADHD(注意欠如・多動症)の主な特徴や診断の流れ、職場での配慮事例や対応方法、そして活用できる雇用支援制度について解説します。
社員や周囲の方への理解を深め、誰もが働きやすい職場づくりのヒントとしてご活用ください。
大人のADHDとは?その主な特徴
大人のADHD(注意欠如・多動症)とは、注意力や行動面の特性として 「不注意」「多動性・衝動性」 を持つ発達障害の一つ。
もともとは子どもの頃に発見されることが多い障害ですが、子ども時代には問題にならなかった特性が大人になってから表面化し、はじめて診断に至るケース も珍しくありません。
まずは、大人のADHDに見られる主な特徴について押さえておきましょう。
ADHDの三つの特性領域とは?
ADHDの特性は大きく3つの領域に分類されます。それが前述した 「不注意」「多動性」「衝動性」 です。
この3つの要素が組み合わさって現れるため、人によって困りごとの現れ方はさまざまです。
例えば、不注意が目立つタイプ、多動・衝動性が目立つタイプ、両方が混在するタイプ に分けられるとされています。
大人のADHDの場合、一般に子どもの頃より 多動の傾向は弱まり、不注意症状が目立つ と言われます。
以下では、不注意傾向と多動・衝動傾向それぞれの具体例を見てみましょう。
不注意優勢型に見られる傾向
ADHDの不注意傾向が強い人は、集中力の維持や計画性の面で困難を抱えがちです。
その具体例として、例えば次のような特徴が挙げられます
- ●集中力が続かず、業務中につい他のことに気を取られてしまう
●ケアレスミスが多い(細かなミスを繰り返してしまう)
●忘れ物や紛失物が多い(必要な書類や物品をよく置き忘れる)
●スケジュール管理が苦手で、計画的に仕事を進めるのが難しい
●約束や締切を失念してしまうことがある
このように不注意優勢型のADHDでは、仕事や日常生活で「うっかりミス」や「物事の抜け漏れ」が頻発しやすいのが特徴。
本人は真剣に取り組んでいても見落としが生じてしまい、周囲からは「だらしない」「詰めが甘い」と誤解されることもあります。
しかし、これらは本人の努力不足ではなく脳機能の特性によるものであり、適切な対策や支援によってカバーできる領域でもあります。
多動・衝動性優勢型に見られる傾向
一方、ADHDの多動性・衝動性の傾向が強い人は、行動面や対人面で以下のような特徴がみられます。
- ●落ち着きがなくじっとしていられない
(会議中につい貧乏ゆすりをする、席を立ちたくなる等)
●一方的にしゃべり続けてしまう
(会話でつい相手の話を遮って話し続ける)
●思いついたら即行動してしまう
(深く考えず衝動的に行動に移る)
●感情の起伏が激しい
(カッとなりやすく、ストレス反応が強く出る)
●順番待ちが苦手で焦れてしまう
(会議の発言順や業務の優先順位を待てずに割り込む)
多動・衝動性優勢型では、このように行動の落ち着きのなさや抑制の難しさが目立ちます。仕事中に私語が多かったり、思い立ったらすぐ別の作業に手を付けたりしてしまうため、周囲からは「せっかち」「協調性に欠ける」などと映ることもあるでしょう。
しかし、こちらも本人の意思や性格だけの問題ではなく、ADHDの特性による コントロールの難しさ が背景にあります。
大人のADHDならではの特徴と二次的な影響
大人のADHDでは、子ども時代に比べて目立つ多動行動(駆け回る等)は少ないものの、内面の落ち着かなさや不注意によるミスが職場や家庭で問題化しやすい傾向があります。例えば「口頭だけの指示が頭に残らずミスをしてしまう」「複数の仕事を同時に頼まれると混乱してパニックになる」といったケースも少なくありません。
こうした困難が重なると、本人は自信を失ったり周囲との関係に悩んだりし、うつ病などの二次障害を併発してしまうリスクもあります。
実際、成人のADHD当事者の約7割は何らかの精神疾患を併存しているとの報告もあり、失敗の繰り返しから抑うつ状態に陥りやすいとも指摘されています。
しかし一方で、「ADHD=欠点だらけ」というわけでは決してありません。大人のADHD当事者の中には、自身の特性と向き合いながら仕事で活躍している人も数多くいます。
次では、ADHDならではの強みや長所についても触れてみましょう。
ADHDの強みやポジティブな面にも目を向けよう
ADHDの特性は困りごとを生む一方で、見方を変えればユニークな強みにもなり得ます。
例えば、大人のADHD当事者によく見られる長所として次のような点が挙げられます
- ●発想力が豊かでアイデアに富んでいる
●好奇心旺盛で新しいことにも積極的にチャレンジできる
●興味のある分野には没頭できる集中力(「過集中」と呼ばれる現象)がある
●決断力が高く行動が早い(思い立ったらすぐに動けるフットワークの軽さ)
●感受性が豊かで共感力や表現力に優れている
これらの特性は、適切な場面では大きな強みとなります。
例えば、新規企画を考える場では独創的なアイデアマンとして活躍したり、興味のある専門領域では人並み外れた集中力で成果を上げたりすることもできるでしょう。
実際に、ADHDの特性を活かして 仕事で大きな成果を上げる人も存在する ことが報告されています。
大切なのは、本人が自分の特性を理解し周囲も強みと弱みを正しく認識することです。
次の章では、まず「もしかしてADHDかも?」と感じた際の診断の目安やプロセスについて見ていきましょう。
大人のADHDの診断:気づいたときの目安とプロセス
「ひょっとして自分はADHDではないか?」――社員や身近な人が大人になってこのように感じ始めたら、まずは専門的な診断を検討する段階かもしれません。
現在、大人になってから発達障害と診断される方は増えており、職場での失敗や生きづらさをきっかけに受診に至るケースが多いとされています。
ここでは、大人のADHDの診断基準や受診の流れ、相談先について解説します。
適切な診断を受けることは、当事者が必要なサポートを得て働きやすくなるための第一歩です。
「もしかしてADHD?」と感じるのはどんなとき?
大人のADHDが疑われるきっかけとしては、職場や家庭で繰り返されるミスやトラブルへの悩みがあります。
例えば、「他の人が普通にできることが自分にはうまくできない」と苦しんだり、注意しているつもりでも同じ失敗を何度もしてしまったりすると、「自分は怠けているのではなく発達障害の特性ではないか」と考えるようになります。
特に仕事上の困難(ミスの指摘や評価の伸び悩み)が続くと、初めて「ADHDかもしれない」と病院を受診する人が多いのです。
したがって、本人や周囲が特性に気づきにくいまま社会人になり、その後職場環境で困難に直面して発覚するパターンは決して珍しくありません。
では実際にどのような症状があればADHDを疑うべきなのでしょうか。
ADHDの公式な診断基準では、子どもの頃から不注意や多動・衝動の症状が持続していることが重視されます。
しかし本人の記憶だけでは振り返りが難しい場合も多いため、大人の場合は現在の生活で現れている具体的な困りごとに注目します。
先述したような 注意散漫さや仕事のミスの多さ、人間関係での行き違いの多発 などが続くようであれば、専門家に相談してみる価値があるでしょう。
ADHDの診断基準と専門医療機関での評価
専門医療機関では、ADHDかどうかを判断する際に**アメリカ精神医学会の「DSM-5」という基準が用いられます。
DSM-5の診断基準では、不注意症状9項目・多動衝動症状9項目のうち一定数以上が該当し、その症状が12歳より前から存在し現在も複数の環境で支障をきたしていること、他の障害による症状ではないこと…といった条件が定められています。
医師はこれらの基準に基づき、問診やカウンセリング、各種心理検査 を通じて総合的に評価を行います。
診断には即日で結論が出る場合もあれば、経過観察や追加の情報収集が必要で複数回の受診を要する場合もあります。
診断を受けるまでの一般的な流れ
大人のADHDを診断できるのは、主に精神科や心療内科の医師です。
受診を検討する際は、発達障害の診療経験が豊富な医療機関を選ぶと安心です。
初診では、現在直面している困りごとや生育歴について詳しくヒアリングが行われます。必要に応じて心理検査(知能検査や注意力テストなど)やチェックリストへの記入も実施されます。
診断にあたっては、子どもの頃の様子や現在の生活・仕事上の状況に関する情報が重要になります。
そのため、以下のような準備をしておくと診断プロセスがスムーズです
●日常生活や職場で困っていることのリストアップ
(具体的なエピソードや頻度)
●幼少期の行動や性格がわかる資料
(母子手帳の成長記録、学校の成績表や先生の所見、両親や兄弟から聞いた幼少期の様子)
これらをメモにまとめて持参すれば、医師も客観的に評価しやすくなります。
反対に、情報が不十分な場合やADHDに似た特性を持つ別の疾患(自閉スペクトラム症や双極性障害など)の可能性がある場合、すぐに診断が確定しないこともあります。
焦らず医師と相談しながら、自分にとって最適な支援策を探っていきましょう。
診断結果とその後の対応
医師から「ADHDです」と正式に診断が下りた場合、今後の対応についていくつか選択肢があります。
治療が必要と判断された場合は、薬物療法(症状を和らげる薬の服用)や認知行動療法(考え方や行動パターンを整えるカウンセリング)などが提案されます。
また、日常生活上の工夫として環境調整も重要です。
例えば「予定を忘れてしまうならスマホのリマinders(リマインダー)やカレンダーで通知設定する」「気が散りやすいなら耳栓やパーテーションで集中しやすい環境を作る」といった対策が効果的。
一方、職場への伝え方も大きな課題になります。
診断を受けたからといって必ず会社に開示しなければならないわけではありません。
しかし、上司や人事に相談して働き方の配慮を得ることで、本人にとって働きやすさが飛躍的に高まるケースもあります。
後述するように、公的な雇用支援制度を活用するには正式な診断や障害者手帳が必要となる場合もありますので、信頼できる産業医や支援機関とも連携しつつ、今後の方針を検討すると良いでしょう。
職場での配慮事例と効果的な対応方法
社員や同僚としてADHDの特性を持つ人と接する際、周囲が理解し工夫することで職場での困難を大きく軽減できます。
ここでは、ADHDの特性によって職場で生じがちな困りごとと、その対策となる配慮事例やサポート方法を紹介します。
中小企業の現場でも取り入れやすい工夫ばかりですので、ぜひ参考にしてください。
ポイントは、ADHDの社員本人だけでなく職場の誰にとっても働きやすい環境づくりを目指すことです。
ADHD特性による「職場の困りごと」あるある
まず、ADHDの特性が原因で職場で起こりやすい 「困りごとあるある」 を見てみましょう。当事者の声や支援現場の経験から、次のようなケースが典型的です。
- ●指示を最後までやり遂げられず、仕事を完了できない
(途中で他のことに気を取られてしまう)
●業務や課題を計画的に進めることが難しい
(締切直前にならないと手を付けられない、段取り良く進められない)
●おしゃべりが止まらず、会議や対話で人が口を挟む隙を与えない
(思いついたことをすぐ話してしまう)
●マルチタスクやスケジュール管理が苦手
(複数の依頼を同時に受けると混乱しやすい)
●ケアレスミスが多く、上司から注意されることが頻繁にある
●口頭の指示だけでは内容を覚えられない
(一度聞いただけでは抜け漏れが生じる)
これらの「困りごと」は、当事者本人も決して怠けている訳ではなく努力していても起こってしまうものです。
周囲から見ると「何度言っても直らない」「注意力が足りない」と映るかもしれませんが、根本にはADHD特有の情報処理のクセがあります。
したがって、本人を責めるのではなく環境ややり方を工夫する視点が大切です。
本人ができる工夫・セルフマネジメント術
まずADHD当事者本人が取り組める対処法として、セルフマネジメントの工夫があります。本人が自分の苦手を自覚し、小さな対策を習慣づけることで業務上のミスや抜け漏れを減らす効果が期待できます。
例えば次のような仕事術は多くのADHD当事者に有効とされています。
- ●「整理整頓だけ」を行う時間を毎日確保する
(書類やメールを放置せず、その時間に片付け切る)
●タスクや予定を徹底的にリスト化する
(付箋やメモアプリにやることリストを書き出し見える化する)
●持ち物や資料は前日のうちに準備する
(出勤前のバタつきを避け忘れ物を防ぐ)
●仕事にゲーム要素を取り入れる
(時間を競う、ポイント制で自分にご褒美を与える等工夫して飽きない工夫)
●スケジュール管理ツールやリマインダーを活用する
(期限や予定をスマホで通知させる)
例えば、常に付箋で「今日やることリスト」をPCに貼ってチェックする習慣をつけた結果、仕事の抜け漏れが減ったという当事者の報告もあります。
また、スマホのアプリを使って物の紛失を防ぐ(一定の距離を離れると知らせてくれるタグを利用する)、周囲の騒音が気になるときはイヤホンでシャットアウトするといった工夫も簡単に実践できます。
本人がこれら自己対処策を身につけることで、ある程度の困難は軽減できるでしょう。
ただし、職場全体の理解や協力がなければ限界もあります。
次に、周囲や上司が行える配慮策を紹介します。
周囲や上司に求められる配慮・サポート例
職場においてADHDの特性を持つ社員が力を発揮するには、上司や同僚による「合理的配慮」が欠かせません。
これは法的にも求められる視点であり、障害者であるか否かに関わらず、誰もが働きやすい環境を整えるための工夫と言えます。
具体的には次のような配慮例が有効とされています。
- ●口頭だけでなく指示内容を書面や見える形で伝える
ADHDの人は思考が散逸しやすく、口頭指示のみでは漏れが生じがちです。
そこで、仕事内容やタスクの指示は口頭説明に加えて紙に箇条書きする、ホワイトボードに書いて共有するといった工夫が有効です。
できるだけ具体的かつ明確な指示を心がけることで、本人も何をすべきか把握しやすくなります。
- ●複数の作業を同時に依頼しない
ADHD傾向のある人はマルチタスクが大の苦手です。
あれもこれもと一度に指示するのではなく、一つひとつ順序立てて依頼するようにしましょう。
例えば「Aの作業が終わったら次にBをお願いします」という風に段階的に伝えるだけでも、本人の混乱を防ぎ作業効率が上がります。
- ●集中しやすい環境を整える
注意がそれやすい特性に配慮し、可能であれば 席周りにパーテーション(仕切り)を設置する、イヤーマフやノイズキャンセリングイヤホンの使用を認める、周囲の人の出入りや話し声が少ない静かな席を用意するといった環境調整が有効です。
実際に「気が散りやすく集中が難しい社員に、周囲との間に仕切り板を立てる配慮をしたところ、生産性が向上した」という報告もあります。
- ●過度なプレッシャーの緩和と声掛け
ADHDの社員は時間管理が苦手なあまり休憩を忘れて没頭してしまったり、逆に仕事を先延ばしにしてしまうことがあります。
上司や同僚が 「〇時になりましたので一度休憩しましょう」 と声を掛けたり、進捗確認をこまめに行ったりすることで、適切にペース配分できるようサポートできます。
これは本人の心身のリフレッシュにも繋がり、結果的に仕事の質を維持できます。
- ●コミュニケーション上の配慮
指示やフィードバックの伝え方にも工夫が必要です。
抽象的で曖昧な表現を避け、肯定的で具体的な言い方に変えるだけでも理解度が高まります。
例えば「もっとしっかりして」ではなく「報告書の〇〇ページをもう一度チェックしてください」のように具体的に伝える、口頭で伝わりにくければ図解やマニュアルを用いる、といった方法です。
注意や指導の際も人格を否定せず、良い点を認めながら具体的な改善策を提示することで、本人のモチベーションを保ちつつ成長を促せます。
以上のような配慮は、決して特別なものではなく「誰にとっても分かりやすい指示」「働きやすい職場環境」を作る取り組みそのもの。
結果的に職場全体の生産性向上やコミュニケーション円滑化にもつながるでしょう。
特性を活かす配置と役割で能力を引き出す
ADHDの社員が安定して戦力として活躍するためには、その人の強みを活かせる業務に就けることも重要です。
前述したように、ADHDの方には発想力や行動力、集中力などユニークな長所があります。企業側が本人の障害特性と強みを正しく理解し、適した業務へのアサイン(配置転換)や合理的配慮を行えば、十分に安定した就労と活躍が可能です。
例えば、細かい事務処理よりもクリエイティブな発想を要する企画業務で力を発揮したり、人と話すのが得意ならば顧客対応の役割を持たせるなど、「得意を活かし、苦手をカバーできる」配置を考えてみましょう。
必要に応じて業務内容の調整や分担見直しを柔軟に行うことも大切です。
また、本人が自分の特性を職場にオープンにしている場合は、周囲にその特性を知ってもらい 「困ったときは助け合う」風土を作ることも有効です。
ADHDへの理解が職場で進めば、同僚も自然とサポートし合えるようになります。
結果として社員一人ひとりが持てる力を発揮し、組織全体のパフォーマンス向上にもつながるでしょう。
ADHDの人材を活かすための雇用支援制度
最後に、障がい者雇用に関する支援制度について押さえておきましょう。
発達障害であるADHDの特性を持つ人を雇用・活用する際には、国や自治体の提供する様々な制度を活用できます。
中小企業にとって、人材の採用・定着は大きな経営課題ですが、これらの制度は費用面・人的支援の面で強い味方となります。
ここでは、知っておきたい代表的な支援策をいくつか紹介します。
法律に基づく障害者雇用推進と企業の役割
日本には「障害者の雇用促進等に関する法律」(障害者雇用促進法)があり、障害者の雇用機会拡大と職業安定を図る枠組みが整備されています。
一定規模以上の企業には法定雇用率に応じた障害者雇用が義務付けられ、未達成の場合は納付金を支払う仕組みとなっています(一方で達成企業には調整金が交付されます)。
発達障害(ADHDなど)も「精神障害者保健福祉手帳」を取得すれば法定雇用率の算定対象に含まれ、企業としてカウントされます。
近年では、精神・発達障害者の雇用者数は年々増加傾向にあり、2022年度には前年から11.9%増と大幅に伸びています。
つまり、今後ますます多くの職場でADHDを含む発達障害の人材が活躍する時代になっていくと言えます。
中小企業においても、障害者雇用は「社会的責任」だけでなく 将来的な戦力確保の観点から積極的に推進する意義があるでしょう。
ハローワーク等の公的機関による就労支援
ハローワーク(公共職業安定所)は、障害者の就職支援において中心的な役割を担う公的機関です。
全国のハローワークには専門の担当者として「精神・発達障害者雇用サポーター」や「障害者職業相談員」が配置されており、発達障害のある求職者に対する専門的な就職支援や職場定着支援を行っています。
これらのスタッフは、障害特性に応じた職業相談や企業とのマッチングを図ってくれる心強い存在です。
さらに、必要に応じて福祉機関や教育機関、地域の障害者職業センターなどと連携し、事業主(企業側)への助言や支援も行っています。
企業の立場から見ると、ハローワークに相談することで「どんな配慮が必要か」「適切な人材紹介を受けるにはどうすればよいか」といったアドバイスを得ることができます。
また、ハローワーク経由の支援策としてトライアル雇用制度があります。
これは障害者を一定期間試行的に雇用し、企業・本人双方が適性を見極めつつ早期雇用につなげる制度です。
一般的な障害者トライアル雇用では原則3か月間の試行雇用が行われ、その間、精神障害者の場合は月額最大8万円、その他の障害区分でも月額最大4万円が企業に支給されます。
短時間から始め段階的に勤務時間を延ばす「短期トライアルコース」もあり、こちらでは最大12か月間、月額最大4万円が支給されます。
トライアル雇用を活用すれば、企業は採用リスクを軽減しつつ本人の働く力を見極めることができ、本人も職場に慣れながら実力を発揮できるメリットがあります。
雇用助成金の活用による経済的支援
障害者を雇用する企業に対しては、各種の雇用助成金が支給される仕組みがあります。代表的なものの一つが「特定求職者雇用開発助成金」です。
ハローワーク等の紹介により障害者を雇い入れた場合に支給されるもので、例えば発達障害者を継続雇用する場合、中小企業なら1人当たり最大240万円(大企業は100万円)の助成が受けられます。
さらに、障害者手帳を持たない発達障害者を雇用した場合にも適用できる別枠の助成金(発達障害者雇用開発助成金)もあり、こちらは中小企業で最大135万円が支給されます。
これらは2024年時点の制度内容で、年度によって金額や要件が変わる可能性がありますが、いずれにせよ人件費の一部を国が補填してくれる非常に心強い制度です。
加えて、職場のバリアフリー化や作業設備の整備に対する助成(障害者作業設備等設置等助成金など)や、通勤や在宅勤務の支援に関する助成金も用意されています。
例えば、ADHDの社員が集中しやすいように職場に間仕切りやノイズキャンセリング機器を導入した場合、その費用の一部を助成金でまかなえる場合があります。
中小企業では予算上ためらいがちな環境整備も、これら制度を使えば実現しやすくなるでしょう。
ジョブコーチ(職場適応援助者)による専門的支援
ジョブコーチとは、職場における障害者の適応を支援する専門家です。
ADHDを含む発達障害のある社員に対して、ジョブコーチが職場に赴いてマンツーマンで指導・助言を行い、職場定着をサポートしてくれます。
厚生労働省の制度では、各都道府県の「地域障害者職業センター」に配置されたジョブコーチを企業に派遣する仕組みがあり、きめ細かな人的支援を受けることが可能です。
また、企業が自社内にジョブコーチ(企業在籍型ジョブコーチ)を置いて社員を支援する場合には、その企業に対して助成金が支給される制度もあります。
具体的には、企業在籍型ジョブコーチとして自社社員に支援業務を担当させると、対象障害者1人あたり月額3万~8万円(企業規模と支援時間により変動)の助成金を受け取れます。
ジョブコーチは、当事者への業務の教示だけでなく、企業側への助言(どんな配慮をすればよいか、職場の同僚への障害理解のフォローなど)も担ってくれるため、職場全体での受け入れ体制づくりに大いに役立ちます。
ジョブコーチ支援を希望する場合は、地域障害者職業センターやハローワークに相談すれば手続きを案内してもらえます。
中小企業では専任スタッフを配置する余裕がないことも多いですが、外部の専門家の力を借りることで安心してADHDの社員を受け入れ、定着まで見守ることができるでしょう。
民間の就労支援サービスや地域支援機関の活用
行政の機関以外にも、障害者の就労を支援する様々なサービスがあります。
例えば就労移行支援事業所は、障害のある方が一般企業への就職を目指して職業訓練や就活サポートを受けられる福祉サービスです。
ADHDを含む発達障害の方がこのサービスを利用してビジネスマナーや業務訓練を積み、企業実習を経て就職するケースも増えています。
就労移行支援事業所経由で入社した社員の場合、事業所のスタッフが企業訪問して職場定着のフォローを行ってくれるなど、就職後も一定期間サポートが受けられます。
中小企業にとっては、人材紹介会社を利用するような感覚で、障害者雇用の専門的サポート付きで人材を迎え入れられるメリットがあります。
また、各都道府県に設置された発達障害者支援センターでは、発達障害のある本人や家族からの相談対応はもちろん、企業からの相談も受け付けています。
「職場で発達障害のある社員への対応に悩んでいる」といった相談に乗ってもらえ、必要に応じて専門機関や支援制度を紹介してくれるでしょう。
その他、障害者就業・生活支援センター(通称ナカポツ)という地域の相談機関もあり、就労面と生活面の両面から障害のある方と企業を支える役割を担っています。
まとめ:ADHDの理解が、企業の可能性を広げる
大人のADHDは、気づかれにくく誤解されやすい特性ですが、正しく理解し適切な支援を行えば、職場の中でその人ならではの力を存分に発揮できます。
企業がADHDの特性を理解し、診断や職場での配慮、活用できる支援制度を知ることで、採用や定着の不安を大きく軽減することができます。
中小企業においても、制度や支援機関を上手に活用すれば、無理なく発達障害のある人材を活かすことが可能です。
多様性を尊重し、誰もが安心して働ける職場づくりは、社員一人ひとりの力を引き出すと同時に、企業の持続的な成長にもつながります。
ADHDの特性を「課題」ではなく「特性」と捉え、強みを活かせる環境を整えること。
それこそが、これからの時代に求められるインクルーシブな雇用の第一歩です。
株式会社アルファ・ネットコンサルティングでは、アクセルというサービスを提供しています。
「法定雇用率を満たせない」
「採用後に長く働いてもらえるかわからない」…という企業様向けに、
障がい者雇用枠で新規顧客開拓のスぺシャリストを採用し、
ADHDの特性を活かし、貴社の営業力を強化するためのサービスを提供しています。
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