ADHDの方は時間を守るのは苦手?その理由と職場でできる対処法を紹介

ADHDを持つ社員は、時間通りに行動するのが苦手だと言われます。
しかし、それには脳の特性に基づく様々な理由があり、適切なサポートによって改善や適応も可能です。
本記事では、中小企業の経営者の皆さまに向けて、ADHDの特性から時間管理が苦手な理由を解説し、職場でできる具体的な対処法や法的な配慮、採用時のポイントについて紹介。
社員一人ひとりが力を発揮できる職場づくりのヒントとしてぜひ参考にしてください。

 

ADHDの方が時間を守るのが苦手な理由

時間感覚のズレと時間見積もりの難しさ

ADHDの特性として、時間の流れを把握する力が弱い傾向があります。
自分では「5分で終わる」と思っていた用事が、実際には30分以上かかってしまうことは珍しくありません。
このように時間の見積もりがずれやすいため、予定していた時刻に間に合わなくなってしまうのです。
時間管理が苦手なのは決して怠慢ではなく、脳の特性上時間の経過を実感しにくいことが一因なのです。

 

睡眠リズムの問題による朝の苦手さ

ADHDのある方には睡眠リズムに課題を抱えるケースも多く見られます。
夜更かしや不眠、朝起きられないといった傾向があり、決まった時間に起床すること自体が難しいことがあります。
その結果、予定の出社時刻に間に合わず遅刻してしまうことにつながります。
睡眠障害を併発している場合もあり、朝起きるべき時間に目覚められないという深刻な悩みを抱える人も。
このように、生体リズムの乱れは時間を守れない大きな要因の一つです。

 

集中しすぎて時間を忘れてしまう

ADHDの人は注意散漫になりがちと言われますが、一方で興味のあることに没頭し過ぎてしまう「過集中(ハイパーフォーカス)」の傾向がある人もいます。
一つの作業に夢中になるあまり時間を意識できなくなり、気づいたときには次にやるべきことの時間に遅れていた…ということが起こりえます。
例えば趣味や目の前の業務に集中しすぎて会議の開始時刻を過ぎてしまう、退社時間を過ぎて終電を逃してしまう、などのケースです。これは本人の責任というよりADHDの認知特性によるもので、時間より目の前の刺激に注意が向いてしまうことが原因です。

段取りの難しさと予定ミス

段取り力や計画性の弱さも、ADHDの人が時間を守るのに苦労しがちな理由です。
初めて行く場所への移動や新しい予定の際に、事前の準備やシミュレーションが不十分だと遅刻につながることがあります。
待ち合わせ場所を勘違いしていて余計な移動に時間を使ったり、行き方・乗り換えを調べておらず道に迷って時間をロスすることがあります。

また電車やバスの時間を調べ忘れて結果的に遅れる、といったうっかりミスも起こりがち。
これは見通しを立てることが苦手な特性によるもので、特に初めての状況では顕著です。

 

切迫感が湧かず行動を先延ばしにしてしまう

ADHDの人の中には、「間に合わないかもしれない」「早くしなければ」と頭では分かっていても体が動かないという方もいます。
ギリギリにならないとエンジンがかからず、ついダラダラと準備に時間を費やしてしまうのです。
これは時間に対する切迫感が湧きにくい特性によるもの。

「急がなければ」と焦る気持ちが持続せず行動が遅れてしまい、結果的に遅刻に至るケースです。
周囲からは「なぜもっと早く動かないのか」と不思議に見えるかもしれませんが、本人にとってはタイムリミットが実感しづらいことが背景にあります。

職場でできる具体的な対処法・支援策

事前準備を促し余裕をもって行動できる工夫

時間管理が苦手な社員には、事前準備の徹底と早めの行動を習慣づけてもらうことが基本的な対処法となります。
例えば前日のうちに服装や持ち物を準備し、朝は身支度に時間を取られないようにします。また、当日はいつもより早めに家を出発し、余裕を持って通勤できるよう促しましょう。

「自分は遅刻しがちだ」という自覚を本人が持ち、通常よりも早いタイミングで行動を開始することが大切。
このような習慣づけに会社側が理解を示し、「早め行動」の努力を評価することで、本人も安心して取り組めるようになります。

 

アラームやタイマーによる時間管理サポート

ADHD当事者の時間管理をサポートする具体策として、複数のアラームやタイマーの活用があります。
朝なかなか起きられない社員には、目覚まし時計の設定時刻を通常より早めたり、5分おき・10分おきに複数回アラームを鳴らすように提案してみましょう。

一度のアラームでは起きられなくても、何度か鳴れば覚醒しやすくなります。
また、業務中に一つの作業に集中しすぎて切り替えができない場合には、タスクごとにタイマーをセットし、次の行動を促す方法が有効です。

例えば「会議開始5分前」「次の作業に移る時間」をスマホのアラームやPCの通知で知らせるようにします。
職場で音を出すのが難しい場合はアラーム音を消してバイブレーションやポップアップ通知で気づけるよう工夫するとよいでしょう。

 

タスクの見える化と優先順位づけ

仕事の手順や優先度を見える形にすることで、ADHDの社員が自分で時間配分しやすい環境を整えることができます。
具体的には、チェックリストやホワイトボード、タスク管理ツールを活用して「何を・いつまでに・どの順番で」行うかを明示します。
図や写真付きの作業手順書を用意し、必要に応じて机上に貼っていつでも確認できるようにするのも良い方法です。
また、重要度や締め切りが一目で分かるように色分けや番号付けをして優先順位を示すと、注意力が散漫でも今やるべきことに意識を向けやすくなるでしょう。
タスクを見える化することで抜け漏れを防ぎ、時間の管理への意識も高める効果が期待できます。

集中しやすい静かな作業環境づくり

職場環境の調整も重要な支援策です。周囲の音や人の出入りが多い環境では注意がそれて作業が滞り、時間内に終わらない原因になります。
可能であれば、ADHDの社員の席を静かな場所に配置したり、パーテーションで区切って視覚的・聴覚的刺激を減らす工夫をしましょう。
また、イヤホンやノイズキャンセリングヘッドセットの使用を許可し、必要に応じて雑音を遮断できるようにするのも有効です。
机の周りの整理整頓も支援ポイントです。周囲に物が散乱していると注意がそれやすいため、一緒に片づけを行いシンプルな作業空間を維持できるようサポートします。

こうした環境整備によって集中力が高まり、結果的に業務を予定時間内に終わらせやすくなるでしょう。

 

勤務時間の柔軟な調整(フレックスや在宅勤務)

社員の特性に合わせて勤務時間帯や働き方に柔軟性を持たせることも検討しましょう。
例えば、朝の通勤ラッシュや定時出社に間に合うことが難しい場合、始業時間を遅らせたりフレックスタイム制を導入することで遅刻のプレッシャーを緩和できます。

実際に、通勤時刻を調整してもらったりフレックス勤務に切り替えてもらったことで、ADHDの社員が安定して働けるようになったケースもあります。
また、在宅勤務(テレワーク)の活用も有効です。自宅であれば通勤によるストレスや準備時間を省ける分、自分のペースで業務を始めやすくなります。
さらに、業務時間中に短い休憩をこまめに取れるようにするのも集中力維持に役立ちます。このように働き方の幅を広げる配慮は、本人の負担軽減だけでなく結果的に生産性向上にもつながります。

ADHD社員への法的配慮と企業の責任

合理的配慮の義務とその意義

日本では、「障害者差別解消法」および「障害者雇用促進法」によって、企業は障害のある従業員に対し合理的配慮を提供する法的義務を負っています。
合理的配慮とは、障害のある人が障害のない人と平等に働けるように環境や業務を調整する措置のこと。
本人の特性に応じて職場環境や勤務制度を調整し、不必要な困難を取り除くことで、その人が安心して能力を発揮できるようにします。
ただし、企業にとって過重な負担とならない範囲で行えばよいとされており、何でも無制限に要求されるわけではありません。
この合理的配慮は単なる法律上の義務に留まらず、社員一人ひとりの多様性を尊重し活かすための前向きな取り組みと位置づけられます。

 

ADHDは障害者雇用の対象になる?

ADHDは発達障害の一種であり、医学的な診断を受けて日常生活や就労に支障があると認められれば法律上「障害者」に該当します。
ADHDなどの発達障害は精神障害者保健福祉手帳の交付対象となっており、診断の結果によってはこの手帳を取得できる場合があります。
手帳を所持しているADHDの方は、企業の障害者雇用枠で採用することが可能であり、雇用率の算定においても1人分としてカウントされます。

したがって、ADHDの社員を雇用することは法定雇用率の達成にも寄与し得ます。
ただし、手帳の有無にかかわらず、ADHDのような見えにくい障害に対しても差別的取り扱いの禁止や合理的配慮の提供義務は適用されます。
本人が手帳を持たないケースでも、企業としては障害の特性に応じた対応が求められる点に留意しましょう。

中小企業が活用できる支援制度や外部資源

障害のある社員への対応に不安がある場合でも、企業単独で抱え込む必要はありません。行政や専門機関の支援制度を活用することで、中小企業でも無理なく合理的配慮を実践できます。
例えば以下のような外部資源があります。

 

地域障害者職業センター

障害者職業カウンセラーやジョブコーチ(職場適応援助者)が配置されており、職場への助言や本人への訓練・定着支援を受けることができます。
必要に応じて専門スタッフが職場に訪問し、具体的な支援策を提案してくれます。

 

障害者就業・生活支援センター

社会福祉法人等が運営する地域の相談窓口で、企業に対する障害者雇用の助言や、障害当事者への就業面・生活面の相談支援を行っています。
企業と本人・支援機関をつなぐ役割を果たし、必要な調整やフォローアップを継続して提供します。

 

ハローワークの障害者担当窓口

職業安定所(ハローワーク)には専門援助部門があり、障害者専門の職業相談員が配置されています。
障害者向けの求人紹介や面接日の調整、企業側への助言、さらには場合によって面接への同行支援なども行っています。

 

この他にも、助成金制度を活用して職場設備の改善や機器の導入費用を一部補助してもらえる場合があります。
障害者のための作業環境整備に対する助成制度や、人材紹介会社を通じて障害者を雇用した際の奨励金など。
各自治体や労働局によって制度が異なるため、利用可能な支援策については地域の障害者職業センターやハローワークに相談し、最新情報を確認するとよいでしょう。

 

合理的配慮は組織全体にメリットがある

合理的配慮というと「特定の社員のための特別扱い」と捉えられがちですが、実は組織全体の働きやすさ向上につながる取り組みでもあります。
業務手順の見える化や情報共有の徹底はミスの防止に役立ち、ADHDに限らず全ての従業員の生産性向上に関わるでしょう。
また、フレックスタイムや在宅勤務の導入は育児中の社員や遠距離通勤者にも働きやすい環境を提供し、結果として会社全体のエンゲージメント向上につながるでしょう。

合理的配慮は「特別なこと」ではなく「働きやすい職場づくり」の延長に他なりません。多様な人材が力を発揮できる職場はイノベーションを生み出しやすく、中長期的に見て企業の持続的成長にも直結します。
企業が積極的に合理的配慮に取り組むことは、ADHDの社員本人だけでなく会社全体の利益になるのです。

 

ADHDの人材を採用する際のポイント

採用選考における公平性と配慮

ADHDなど障害のある応募者の採用選考では、公正なプロセスを確保することが大前提です。
障害を理由に不採用としたり、必要な配慮を拒否するといった行為は法律で障害者差別の禁止として明確に禁じられています。
応募者が試験や面接を受けやすいよう、会場のバリアフリー化や筆記試験の方法変更などの合理的配慮を事前に検討しましょう。
例えば、集中力に不安がある方には試験時間を延長したり、別室で個別にテストを受けてもらう配慮が考えられます。
選考中は、障害そのものではなく業務遂行能力に着目した評価を行うことが大切。
「障害があるから難しいだろう」という先入観ではなく、「適切な配慮があればこの人は力を発揮できるか?」という視点で判断するよう心がけましょう。

 

面接時のコミュニケーション上の工夫

面接の場では質問の仕方や進め方に工夫することで、ADHDの応募者が実力を発揮しやすくなります。
例えば、ある質問に対して受け答えに詰まってしまう場合、質問の言い回しをより平易な表現に言い換えると回答を引き出せることがあります。

必要に応じて、口頭だけでなく図や書いたメモを示しながら説明することで理解を助けるのも有効です。
また、集団面接は避けて個別面接にする方が落ち着いて話せる場合が多いでしょう。
大勢の前だと緊張や混乱が生じやすいためです。
面接官は早口でまくしたてたり圧迫的な態度を取ることなく、ゆっくり傾聴し共感的な姿勢で臨みましょう。
応募者が安心して自己アピールできる雰囲気を作ることがポイントです。

 

候補者の強みと適性を見極める

ADHDのある候補者を評価する際には、短所だけでなく長所にも目を向ける視点が重要です。
ADHDの人は確かに不注意などの課題を抱えますが、その一方で豊かな発想力や行動力、特定分野での高い集中力など、職場で強みとなり得る特性も持っています。

面接や書類の印象だけで判断せず、「この人の得意分野は何だろう?」「どんな環境ならこの人の強みが活きるだろう?」といった観点で適性を見極めましょう。
必要に応じて、職場見学や実習の機会を設けるのも有効です。
実際に職場で一定期間働いてもらい、業務への適応ぶりや周囲との協調の様子を確認できれば、お互いにミスマッチを防ぐことができます。

また、一般的に設けられている試用期間を活用し、その間に定期的なフィードバックや面談を行うことで、お互いの理解を深めつつ適材適所を探ることもできるでしょう。
選考段階から「この人の持ち味をどう活かせるか」という目線を持つことで、単にできない部分を評価するよりも適切な採用判断につながります。

障害や希望する配慮事項の事前確認

採用プロセスでは、障害の特性や必要な配慮について事前に確認することも大切です。
応募者によっては、履歴書の「障害について」欄や面接時の会話で、自身の障害特性や希望する配慮事項を伝えてくれる場合があります。
特に厚生労働省が提供している「就労パスポート」を活用し、自分にどんな工夫や支援があれば力を発揮できるかを整理して提示してくれるケースも増えています。

企業側は、そうした情報をもとにどのような配慮が可能かを一緒に検討する姿勢を示すと良いでしょう。
「どんな支援があれば働きやすいですか?」といった問いかけをし、必要な配慮事項をヒアリングします。
ただし、障害についての詳細はデリケートな個人情報でもあるため、本人が話したがらないことを無理に聞き出す必要はありません。
あくまで「安心して働くために必要な情報を共有したい」というスタンスで対話を行いましょう。
応募者にとっても、自分の希望を理解してもらえると分かれば入社後の不安が軽減します。

 

まとめ

ADHDの社員が時間を守るのが苦手な背景には、本人の意志や努力ではどうにもならない特性上のハンデがあります。
本記事で述べたように、時間感覚のズレや集中力の偏りなど、周囲の理解を必要とする特性です。

まずは経営者や職場の同僚がその特性を正しく理解し、「怠けているわけではない」ことを知ることが出発点。
その上で、一人ひとりに合わせた柔軟な対応を心がけることが大切です。
決められたルールに無理に当てはめるのではなく、時には本人に合わせて職場のやり方を調整する度量が、中小企業に求められます。

 

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