「異動が多いための転職」は、キャリアの節目において正当な理由となり得ます。
この記事では、異動が転職理由になる背景と、その際の履歴書の適切な書き方や面接での伝え方について解説しています。
異動によってキャリアパスが不透明になったり、専門性を深める機会が減ったりする場合、新たな職場での挑戦を求めることは自然な流れ。
ただし、退職時や転職時の理由の伝え方については慎重に考える必要があるでしょう。
「異動が多い」を理由にした転職時の効果的な理由の伝え方、ポジティブな印象を与える方法を紹介し、転職活動を成功に導くためのアドバイスも掲載していますので、参考にしてください。
人事異動の基本
まずは人事異動について基本的なことを確認しておきましょう。
異動とは?
人事異動は、従業員が現在の配属部署、役職、あるいは勤務地から他の位置へ移ることを意味します。
これには、
- 同一の事業所内で異なる部署への異動
- 異なる事業所への異動、昇進や降格
- さらには出向や転籍
など、多様な形態が含まれます。
異動の拒否は原則できない
人事異動は、企業運営における不可避な部分であり、正社員として勤務する限り、原則として異動の拒否は難しいという現実があります。
この背景には、企業が保有する経営権の一環としての人事権があり、労働者の配置や処遇の決定権をもちます。
この権限により、企業は業務上の必要に応じて、懲戒や配置命令などを実行することが可能です。
異動命令に対する拒否が認められるのは、極めて限定的な状況下のみであり、正当な理由なく拒否した場合、懲戒解雇のリスクを含め、重大な職業上の不利益を被る可能性があることを理解しておきましょう。
特に、雇用契約に異動の可能性が明記されている場合、その契約の条件のもとで異動を拒否することは、契約違反とみなされかねません。
したがって、異動命令に対して懸念がある場合は、事前に相談や交渉を行うなど、適切な対応を取ることが望ましいです。
異動を拒否できるケース5選
人事異動は原則拒否することはできませんが、以下のような場合には拒否できるかもしれません。
直接交渉するのが難しい場合には、第三者に相談しながら人事異動の拒否を検討してもいいでしょう。
①介護や育児などのやむを得ない事情があるケース
介護や育児などのやむを得ない事情がある場合、人事異動の拒否が可能になることがあります。
介護が必要な家族がおり、その世話をする他の人がいない、または子供が専門的な治療を必要としており、その治療を提供できる施設が新しい勤務地にはない場合などが該当します。
これらの状況では、異動を拒否する合理的な理由となり、勤務先への配慮や理解を要求することができるでしょう。
しかし、異動を拒否する際は、その理由が明確かつ説得力がある必要があり、場合によっては適切な文書や証拠を提供することが求められるかもしれません。
また、最終的に介護や育児の程度が企業の異動において問題ないと判断された場合には異動を拒否できなくなる可能性もあります。
介護や育児を抱えていれば異動を拒否できると断言できるわけではありませんので注意しましょう。
②給与が下がるケース
給与が下がるケースでは、従業員が異動を拒否する権利があります。
企業には人事異動を行う権限がありますが、これによって従業員の給与を不当に下げることは原則として許されていません。
従業員にとって重要な給与の額を下げることは、その従業員の生活に直接、大きな影響を及ぼす可能性があるため、企業は非常に慎重になる必要があります。
異動によって給与が下がる場合は、その異動は従業員の合意を得る必要があり、合意が得られない場合には拒否することが可能です。
③入社時の雇用契約書と異なっているケース
雇用契約書には勤務地や職種など、従業員と雇用者間の合意が記載されており、これらは両者の間での約束事。
したがって、契約内容に反する異動命令は、従業員が正当な理由で拒否することが可能です。
特定の地域内での勤務が約束されているにもかかわらず、遥かに離れた地域への異動が命じられた場合や、全く異なる職種への変更が求められた場合などがこれに該当するでしょう。
雇用契約書に記載されていないような異動命令が下りた場合には、従業員は契約違反を理由に異動命令を拒否し、必要に応じて法的な対応を検討する権利があります。
「雇用契約書の内容と少し違うかも?」と感じるところがあれば、雇用契約書を確認するようにしましょう。
④人事権の汎用にあたるケース
人事異動において、従業員の権利と企業の人事権の適用にはバランスが必要です。
特に、従業員の立場を不当に害する目的で実施される異動は、問題のあるものとして認識されます。
例えば、実務経験を全く活かせない部署への異動や、極端に通勤が困難な場所への転勤がこれに該当します。
こうした異動が、合理的な理由なく行われる場合、従業員はこれを拒否する権利があります。
このような状況では、慰謝料請求の可能性も含め、法的措置を検討してもいいでしょう。
⑤性別・妊娠を理由にしたケース
日本の男女雇用機会均等法は、女性労働者が結婚、妊娠、出産の事由で退職を強いられることを禁止しており、これに準じた異動も同様に不当とされます。
第九条
事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。
2 事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。
3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第二項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
4 妊娠中の女性労働者及び出産後一年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。
従業員がこのような不公平な扱いを受けた場合、法的措置を含む適切な対応が可能です。企業は、性別や妊娠状態を理由にした異動命令を出すことが、従業員の権利を侵害する行為であることを認識し、全ての従業員に対して平等な扱いを保証する責任があります。
「異動が多い」を転職理由にするのはアリ!
「異動が多い」という理由で転職することは、問題ありません。
異動が多い職場環境は、新しいチームやプロジェクトに頻繁に参加することで、柔軟な思考や多角的な問題解決能力を身につけることができますが、専門性を深めたい個人にとっては、このような環境がキャリアビジョンと齟齬を生む場合もあるでしょう。
個人のキャリアビジョンが明確な場合、異動が多い環境はその実現を阻害する可能性もあり、特定の技能や専門知識を深く掘り下げる機会が限られるのがデメリット。
転職の理由は、個人が大事にしている価値観によって様々です。
それゆえ、「異動が多い」という転職理由そのものが問題であるわけではありません。
異動を理由に転職に踏み切る前に確認しておくべき3つのポイント
「異動が多い」を理由にして転職に踏み切ることそれ自体には問題ありません。
しかし、転職を決意する前に、以下の3点は確認しておくようにしましょう。
①異動先の情報
異動が決定した際には、その新しい部署や勤務地があなたのキャリア目標や個人的な価値観とどのように合致するかを検討することが重要です。
異動先の業務内容、チーム環境、リーダーシップスタイル、そして成長の機会について理解を深めることで、異動が実際に不利益なのか、それとも新たな成長のチャンスを提供するものなのかを判断できます。
また、異動先での勤務条件、勤務地の変更が生活に与える影響、そしてそれが個人的な目標や家族との時間にどう影響するかも考慮に入れるべきです。
情報を収集することで、感情に流されずに、より客観的な視点から転職の必要性を評価できます。
異動がキャリアにとってプラスとなる可能性もあるため、全ての選択肢を慎重に検討しましょう。
②失業保険の給付条件
異動を理由に転職を検討する際、失業保険の給付条件を確認しておきましょう。
項目 | 会社都合による退職 | 自己都合による退職 |
---|---|---|
給付開始までの待機期間 | 7日後から | 2〜3ヶ月+7日後から |
受給資格要件 | 退職前1年間に保険加入期間が6ヶ月以上 | 退職前2年間に保険加入期間が12ヶ月以上 |
給付可能日数の範囲 | 90日から330日まで | 90日から150日まで |
給付金額の上限 | 最大約275万円 | 最大約125万円 |